TAX LAW NOTE / 001
貸付用不動産の相続税評価に「5年ルール」案
取得価額ベースの80%評価、区分マンション、評価基本通達185、不動産小口化商品との関係
本稿は法令解釈通達の「案」を整理したものです。確定した取扱いではありません。意見募集期限は2026年10月18日17時、通達制定日は「令和8年●月●日」で未確定です。
このノートの要点
- 現時点では確定通達ではなく、法令解釈通達の「案」
- 対象は、原則として課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得・新築された一定の貸付用不動産
- 原則評価は「課税時期における通常の取引価額相当額」
- 一定の場合には、取得価額を基礎に地価変動・償却等を反映した金額の80%で評価できる
- 貸付用区分マンションは、2023年のマンション評価通達にかかわらず今回の通達を適用する構造
- 評価基本通達185の「3年ルール」が5年へ延長されるものではない
- 不動産小口化商品については、通常の貸付用不動産とは別の評価方法を設ける
- 通達案には5区分の適用除外がある
- 経過措置の基準となる「通達制定日」は現時点で未確定
01制度の現在地
2026年9月18日、国税庁は「貸付用不動産の評価について」の法令解釈通達案を公表し、パブリックコメントを開始した。
今回の案では、課税時期前5年以内に取得・新築された一定の貸付用不動産について、従来の財産評価基本通達による評価とは異なる方法を導入することが示されている。
一方で、すべての賃貸不動産が対象になるわけではなく、取得価額を基礎とした80%評価、貸付用区分マンション、評価基本通達185、不動産小口化商品、適用除外、経過措置など、それぞれ別の論点がある。
本稿では、2026年9月20日時点の通達案をもとに、その構造を整理する。
貸家建付地については、自用地としての価額から借地権割合、借家権割合、賃貸割合を反映した額を控除して評価する。
家屋についても、固定資産税評価額を基礎として、貸家であることを考慮した評価を行う。
そのため、市場で実際に売買される価格と相続税評価額には差が生じることがある。
案どおり制定された場合、
2027年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得する財産
から適用することが予定されている。
なお、本稿執筆時点ではパブリックコメント中であり、確定した取扱いではない。
記事の先頭へ ↑02根拠法令・通達と見直しの背景
相続税法22条は、相続、遺贈または贈与により取得した財産について、この章で特別の定めのあるものを除くほか「当該財産の取得の時における時価」によることを原則としている。
実際の相続税・贈与税の財産評価では、この「時価」を具体化するものとして財産評価基本通達が用いられている。
貸付用不動産についても、現在は貸家、貸家建付地など、それぞれ財産評価基本通達に基づいて評価する。
しかし国税庁は今回の通達案について、市場価格と相続税評価額との乖離を利用した相続税対策等が広く喧伝されていることや、財産評価基本通達6項による評価をめぐる訴訟等が増加していることなどを背景として挙げている。
今回の見直しは、こうした貸付用不動産について、一定期間は通常の財産評価基本通達による評価ではなく、実際の取引価格により近い価額を用いる仕組みを設けようとするものである。
記事の先頭へ ↑03今回の通達案|対象と5年の判定
課税時期前5年以内に取得・新築された一定の貸付用不動産について、
「課税時期における通常の取引価額に相当する金額」
による評価を原則とする。
「5年ルール」の対象となる貸付用不動産
新しい評価方法の対象となるのは、原則として、
「課税時期前5年以内に、対価を伴う取引により取得または新築された貸付用不動産」
である。
ここでいう「貸付用不動産」には、主として次のものが含まれる。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 家屋 | 全部または一部が借家権の目的となっている家屋 |
| 附属設備等 | その家屋とともに貸し付けられている附属設備・構築物 |
| 敷地 | その家屋の敷地となっている宅地・宅地上の権利 |
| その他土地等 | その宅地等とともに貸し付けられている土地等 |
典型例としては、賃貸アパート、貸家、賃貸マンション、賃貸店舗・事務所とその敷地などが考えられる。
一方、「収益を生む不動産」であることだけを理由として、すべてが今回の貸付用不動産に該当するわけではない。
特に土地のみの貸付けや駐車場等については、通達案の定義に沿った確認が必要になる。
5年は「いつ」から判定するのか
通達案では、土地等・家屋等の取得等の時期について、原則としてその「引渡しの時」を基準としている。
したがって、
売買契約を締結した日
と
取得等の日
が必ずしも一致するわけではない。
実務では、契約書だけでなく、決済日や引渡日、新築の場合には建物の引渡しに関する資料なども確認する必要がある。
実務上残しておきたい資料
- 売買契約書
- 決済資料
- 引渡確認書
- 建築請負契約書
- 建物完成・引渡関係資料
- 土地・建物別の取得価額資料
この「いつ取得したか」が、5年ルールの入口になる。
対象となった場合の原則評価
対象となる貸付用不動産は、原則として、
課税時期における通常の取引価額に相当する金額
によって評価する。
ここで注意したいのは、
「5年以内に取得した不動産は、購入価格で評価する」
という制度ではないことである。
基準になるのは、あくまで課税時期の通常の取引価額である。
ただし通達案では、一定の要件を満たす場合に、取得価額を利用した評価方法も示されている。
- 貸付用不動産の定義・保有形態を確認特定小口化商品は第06節、評価基本通達185は第05節で別途確認
- 課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得・新築?いいえ → 第1項の5年要件には該当しない。他の評価規定を確認
- はい適用除外・経過措置に該当しないか確認該当する場合 → 第07節の個別要件を確認
- 対象となる場合の原則:課税時期の通常の取引価額相当額
- 取得価額が取得等の時の通常の取引価額に相当すると認められる場合土地の地価変動/家屋の償却等を反映した金額 × 80%で評価可能
第1項の概略です。取得後に相続等がある場合や例外は、通達案本文と各節を併せて確認します。
04計算方法|取得価額を利用する80%評価
取得価額を利用した「80%評価」
取得価額が、取得等の時における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、その取得価額を基礎として評価する方法を選択できる。
土地等と家屋等では計算方法が異なる。
土地等
概念的には、
取得価額× 地価変動率× 80%
となる。
家屋等
概念的には、
(取得価額 - 取得後の償却費等)× 80%
となる。
したがって、
「取得価額の80%」
とだけ理解するのは正確ではない。
土地では取得後の地価変動を反映し、家屋では償却等を反映したうえで80%を乗じる。
土地の地価変動率
土地等については、取得時から課税時期までの価格変動を反映する。
通達案では、基本的に、
課税時期の属する年の評価基準額
÷
取得時の属する年の評価基準額
という考え方を用いる。
評価基準額には、原則として路線価または倍率方式による価額を利用する。
これでは適切な価格変動を把握できない場合には、地価公示その他の公的な価格情報を利用することも示されている。
したがって、
「5年前に5,000万円で購入した土地だから4,000万円」
という単純な計算ではない。
取得後の地価変動を反映した後の金額に80%を乗じることになる。
家屋の償却
家屋等については、取得価額から取得時から課税時期までの償却費または減価額を控除する。
通達案では、定額法を用い、耐用年数については減価償却資産の耐用年数等に関する省令によるものとしている。
また、取得等の時から課税時期までの期間について1年未満の端数がある場合には、その端数を1年として扱う案となっている。
この点も、所得税や法人税の通常の減価償却計算と同じ感覚で処理しないよう注意が必要になる。
取得価額には何を含めるのか
通達案では、「取得価額」とは、土地等又は家屋等の取得等に要した金額並びに改良費及び設備費の額の合計額をいう。
そのため、将来の相続税評価を考えるうえでは、単に売買契約書を保存するだけでは不十分になる可能性がある。
土地・建物の取得価額の内訳、設備工事、改良工事、増改築などの資料を継続して保存しておくことが重要になる。
記事の先頭へ ↑05既存制度との関係|マンション・185・小規模宅地等
貸付用区分マンションとの関係
貸付用区分マンションについても注意が必要である。
2024年以後、一定の居住用区分所有財産については、2023年9月28日付「居住用の区分所有財産の評価について」による評価方法が導入されている。
しかし今回の通達案では、
財産評価基本通達第2章から第4章まで
だけでなく、
「居住用の区分所有財産の評価について」
の定めにもかかわらず今回の通達による、としている。
したがって、課税時期前5年以内に取得等した貸付用区分マンションが今回の通達案の対象になる場合、
マンション通達による評価だけで完結するわけではない。
今回の貸付用不動産に関する新通達が優先する構造となっている。
評価基本通達185の「3年ルール」との関係
今回の通達案で、特に混同しやすいのが財産評価基本通達185である。
取引相場のない株式を純資産価額方式で評価する場合、評価会社が課税時期前3年以内に取得または新築した土地等・家屋等については、通常の取引価額相当額で評価する既存のルールがある。
今回の5年ルールによって、
「185の3年が5年へ延長される」
わけではない。
通達案では、評価基本通達185により評価する土地等・家屋等については、今回の規定を適用しないことを明示している。
| 制度 | 期間 | 対象 |
|---|---|---|
| 今回の貸付用不動産通達案 | 5年 | 一定の貸付用不動産 |
| 評価基本通達185 | 3年 | 非上場株式の純資産価額計算における一定の土地等・家屋等 |
似た数字が出てくるが、別の制度である。
小規模宅地等の特例の「3年」とも別
もう一つ混同しやすいのが、小規模宅地等の特例である。
貸付事業用宅地等には、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等について一定の制限がある。
これも今回の財産評価上の「5年」とは全く別の制度である。
整理すると、
| 制度 | 期間 |
|---|---|
| 貸付用不動産の新評価案 | 5年 |
| 評価基本通達185 | 3年 |
| 小規模宅地等の特例 | 別制度として3年要件あり |
「不動産」「相続税」「3年・5年」という言葉だけで一括りにしないことが重要である。
課税時期前の取得・新築の時期
非上場株式の純資産価額計算における、評価会社の土地等・家屋等の取得・新築の時期
貸付事業用宅地等について、相続開始前に新たに貸付事業の用に供した時期。一定の例外あり
185の「3年」が「5年」へ延長されるわけではありません。財産の評価方法と、課税価格の特例も分けて確認します。
06不動産小口化商品|別の評価体系とP1・P2・P3
不動産小口化商品は別の評価体系
今回の通達案でもう一つ大きな論点が、不動産小口化商品である。
一定の不動産特定共同事業契約に基づく権利や信託受益権などを「特定小口化商品」とし、その目的となっている貸付用不動産について別の評価方法を設ける。
ここでは、
「取得から5年以内か」
という条件だけで評価方法が決まるわけではない。
特定小口化商品の目的となっている貸付用不動産は、原則として、課税時期における通常の取引価額相当額によって評価する。
通常の貸付用不動産とは分けて読む必要がある。
通達案 第1項
通常の貸付用不動産80%一定の場合に、取得価額を基礎に地価変動・償却等を反映した金額へ乗じる割合。
通達案 第2項
特定小口化商品90%・95%P1の元本等相当額等、P3の一定の鑑定評価額について用いる割合。P2は精通者意見価格。
同じ制度の段階的な割合ではありません。90%・95%は、下記のP1・P2・P3と各適用条件を確認します。
小口化商品のP1・P2・P3
元本等相当額が適正な価格情報に基づいていると認められる場合には、通達案は複数の価格情報を利用する方法を示している。
| 指標 | 概要 |
|---|---|
| P1 | 元本等相当額等を基礎とした金額 |
| P2 | 課税時期における貸付用不動産の精通者意見価格(事業者が有する適正な価格情報を含む) |
| P3 | 一定の不動産鑑定評価額を基礎とした金額 |
P1では、通常は元本等相当額の90%。
一方、その小口化商品の事業が課税時期前5年以内に開始された場合などには、貸付用不動産の価額を一定の方法で修正したうえで95%とする仕組みが示されている。
P3についても、一定の鑑定評価額の95%を用いる。
一定の場合にはP1、P2、P3のうち最も低い金額を用いることができる案となっている。
ここで出てくる90%・95%と、通常の貸付用不動産における80%は、それぞれ別の計算ルールである。
記事の先頭へ ↑07例外・経過措置|5区分と未確定の制定日
5年以内でも対象外となる場合
「5年以内に取得したら必ず新評価」
というわけでもない。
通達案では、一定の場合について、課税上弊害がない限り、当該貸付用不動産を今回の5年ルールの対象から除外する。
通達案の表では5区分に整理されている。
| 区分 | 概要 |
|---|---|
| 1 | 収用、交換処分、換地処分等に伴って取得した一定の土地・家屋等 |
| 2 | 所得税法58条の固定資産の交換特例を受けた一定の土地・家屋等 |
| 3 | 租税特別措置法37条の特定事業用資産の買換え特例を受けた一定の土地・家屋等 |
| 4 | 一定の家屋について課税時期前5年以内に行われた増築・改築部分 |
| 5 | 通達制定日までに一定の土地に新築された家屋等 |
ただし、それぞれ個別の要件がある。
「収用だった」「交換だった」という名称だけで対象外になるわけではない。
経過措置と、まだ決まっていない「通達制定日」
今回の通達案には、
「令和8年●月●日〔通達制定日〕」
という未確定の日付が残っている。
これは単なる空欄ではない。
経過措置の判定に使われる重要な日付である。
通達制定日までに一定の土地に新築された家屋等については、一定の場合に今回の5年ルールから除外する仕組みが設けられている。
さらに一定の「建築中」の家屋も対象になる。
通達案では、その場合について、
- 通達制定日までに新築に係る契約が締結されていること
- その日に工事が実際に行われていること
- 費用の全部または一部が支払われていること
などを要件としている。
したがって、現時点では「5年」という数字だけでなく、経過措置を判定する基準日そのものもまだ確定していない。
記事の先頭へ ↑08実務への影響
今回の通達案が確定した場合、相続税評価の際に確認する資料はこれまで以上に増えると考えられる。
特に重要になりそうなのは、
取得時期
いつ取得・新築したのか。
取得価額
土地と家屋をそれぞれいくらで取得したのか。
取得価額の内容
設備費、改良費等をどこまで含むのか。
取得後の変動
土地の地価変動、家屋の償却をどう反映するのか。
保有形態
個人保有か、法人保有か。
物件の形態
一棟物件か、区分マンションか、小口化商品か。
例外
適用除外・経過措置に該当しないか。
評価額を計算する段階になって初めて資料を探すより、取得時から資料を残しておく方が実務上は重要になる。
記事の先頭へ ↑09筆者の検討メモ
資料に書いてあること
通達案は、第1項に課税時期前5年以内の貸付用不動産、第2項に特定小口化商品の目的となっている貸付用不動産を置き、別の評価方法を示しています。第1項(注)7は評価基本通達185との関係を明記しています。
10今後確認する事項
本稿執筆時点では、まだ法令解釈通達案であり、次の点は今後の確認が必要である。
- パブリックコメント後に本文が修正されるか
- 最終的な通達制定日
- 経過措置の基準日
- 国税庁から追加のFAQ・質疑応答事例等が公表されるか
- 実際の「通常の取引価額」の確認方法がどこまで具体化されるか
- 取得価額を利用できる場合の実務上の資料確認方法
確定版が公表された時点で、本稿も更新する。
11参照資料
原稿の法令確認日:2026年9月20日。今回のページ化に伴う資料照合:2026年9月21日。
- e-Gov パブリック・コメント|「貸付用不動産の評価について」の法令解釈通達(案)・案件410080055 ↗
公示:2026年9月18日/受付締切:2026年10月18日17時。募集状態と資料を確認。
- 国税庁|別紙1 法令解釈通達(案)の概要(e-Gov掲載・PDF) ↗
制定の背景、見直しの概要、適用予定。
- 国税庁|別紙2 貸付用不動産の評価について(案)(e-Gov掲載・PDF) ↗
第1項:5年・80%・適用除外/第2項:特定小口化商品。
- e-Gov 法令検索|相続税法 第22条(評価の原則) ↗
時価評価の法律上の根拠。
- 国税庁|財産評価基本通達(目次) ↗
財産別の評価方法と関係項目への入口。
- 国税庁|財産評価基本通達185「純資産価額」 ↗
非上場株式の純資産価額計算と課税時期前3年以内の土地等・家屋等。
- 国税庁|居住用の区分所有財産の評価について(令和5年9月28日付・法令解釈通達) ↗
区分マンション評価の既存通達。
- 国税庁|No.4614 貸家建付地の評価 ↗
現行の貸家建付地評価の説明。
- 国税庁|No.4124 小規模宅地等の特例 ↗
貸付事業用宅地等の要件・例外を確認。
- 財務省|令和8年度税制改正の大綱(二 資産課税) ↗
令和7年12月26日閣議決定。見直しの政策的背景。大綱自体と法令・通達の確定は区別。
12更新履歴
- 2026年9月20日
- 法令解釈通達案をもとに初稿作成。5年ルール、80%評価、区分マンション、評価基本通達185、不動産小口化商品、適用除外、経過措置を整理。
- 2026年9月21日
- 税法ノートとしてページ化。原稿の本文を保持し、目次・比較表・3つの図解・一次資料リンクを追加。適用除外とP1・P2・P3の原文確認用補足を追加。
- 2026年9月21日(訂正)
- 原資料との照合に基づき、見直しの背景、取得価額の定義、相続税法22条の限定文言及びP2の価格情報の説明を修正。