実務・税法ノート · 日商の意見・要望と現行制度を区別して読む
税実務・税法ノートFUSAKO OBANA · TAX LAW NOTES

PRACTICE & TAX LAW NOTE / 002

日商「令和9年度税制改正に関する意見」を読む

現行制度・要望・実務への影響を整理する

税制改正日商の意見・要望確認日 2026年9月25日

実務・税法ノート|資料確認日:2026年9月25日

日本商工会議所は、2026年9月16日付の「令和9年度税制改正に関する意見」を、9月18日に公表しました。本文は32ページ。事業承継から消費税、設備投資、源泉所得税の納付事務まで、中小企業の経営と税理士実務に関わる論点が整理されています。[1]

今回は、この意見書を手がかりに、現行制度と日商の要望、実務上考えておきたい点を分けてまとめます。後半では、非上場株式の評価見直しについて、私自身が気になっている「説明のあり方」にも触れます。

本稿で取り上げる日商の要望は、それ自体が法律や税制改正の決定ではありません。 要望の内容と、実際に適用される制度は区別して読む必要があります。

01 事業承継税制――期限の延長にとどまらない要望

一般措置を特例措置の水準へ

法人版事業承継税制は、一定の要件の下で、非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税を猶予し、その後、一定の事由が生じた場合に免除する制度です。一般措置と特例措置があり、特例措置の対象となる贈与・相続等の期間は2027年12月31日までとされています。[2]

日商は、企業ごとに承継の時期が異なることを踏まえ、2028年1月以降、一般措置を特例措置並みに拡充することを求めています。

項目一般措置日商が求める拡充
対象株式数総株式数の最大3分の2全株式
相続税の納税猶予割合80%100%
後継者数1人最大3人
雇用確保要件承継後5年間で平均8割の雇用維持弾力化・実質的な撤廃

※要件の全てを示す表ではありません。日商本文p.3、国税庁の制度比較による。[1][2]

「実質恒久化」という言葉の中身は、単に特例の期限を延ばすことではなく、期限のない一般措置の内容を拡充する提案として捉えると分かりやすくなります。

一定期間の事業継続を、免除につなげる

現行制度にも、後継者の死亡などによって猶予税額が免除される仕組みがあります。そのため、「今の制度では税金がなくならない」と言い切るのは正確ではありません。[2]

一方、取消事由に該当すれば、猶予税額の全部又は一部と利子税の納付が必要になる場合があります。長く続く要件管理は、利用を判断する際の大きな問題です。

日商は、成長志向企業について、後継者が一定期間事業を継続した場合に猶予税額を免除する措置を求めています。また、事務負担や専門家費用などから制度を利用できない中小企業に対し、自社株等の一律の評価減制度を設けることも提案しています。〔日商本文p.4〕

実務では、目先の納税額だけでなく、承継後の経営、報告事務、取消しのリスクまで含めて検討します。今回の要望は、その「使い続ける負担」にも目を向けたものと読めます。

02 非上場株式――日商の反対理由を読む

現行の評価は一つの方式ではない

相続税法22条は、同章の特別の定めを除き、取得した財産を取得時の時価で評価することを定めています。取引相場のない株式については、財産評価基本通達に基づき、株主の区分や会社の規模等に応じて、類似業種比準方式、純資産価額方式、その併用、配当還元方式などが用いられています。[3][4]

したがって、「非上場株式の評価を変える」という問題は、単なる計算式の変更にとどまりません。市場価格が日々示されない株式の時価を、どのような方法で具体化するかという問題でもあります。

日商が懸念していること

日商は、国税庁が検討する残余利益方式について、多くの中小企業で株式評価額が大きく上昇し、事業承継に影響する可能性を懸念しています。〔日商本文pp.6–7〕

ここは、日商による影響評価・懸念として読む必要があります。全ての中小企業で必ず評価額が上がることや、具体的な上昇率が確定したことを意味するものではありません。

意見書では、利益の蓄積や収益力の向上が承継時の税負担増につながれば、成長投資や利益を生む経営を妨げかねないと指摘しています。また、非上場株式の換金しにくさ、収益の変動、経営者個人の能力や信用への依存といった、中小企業の実態を考慮するよう求めています。

日商の主張は、悪質な租税回避への対応を優先し、中小企業の実態に見合った評価や税負担の議論がないまま、評価体系全体を見直すことには反対する、というものです。〔日商本文pp.6–7〕

なお、国税庁側では評価の適正化に向けた有識者会議が開かれています。賛否を考える際には、日商の意見書に加え、見直しを必要とする理由と検討資料も併せて読む必要があります。[5]

03 飲食料品の消費税――実施に伴う負担まで考える

日商は、飲食料品の消費税率引下げに伴う影響を緩和するため、次のような対応を求めています。〔日商本文pp.8–9〕

税務面では、申告時に本則課税へ変更できる措置、飲食料品の売上げに係るみなし仕入率の引上げ、簡易課税の継続適用に関する制約の緩和など、具体的な提案が挙げられています。

一般課税と簡易課税では、仕入税額の計算方法が異なります。売上げに係る税額と実際の仕入税額との関係だけを見て、全ての事業者で同じように還付が生じると考えることはできません。[6]

実務では、税率だけでなく、価格表示、契約、請求書、レジ、会計ソフト、申告方法、還付までの資金繰りを一緒に考える必要があります。

本節で整理しているのは、日商の支援・制度対応の要望です。税率引下げ自体の実施時期や適用条件を、この意見書だけから確定するものではありません。

04 交際費――飲食費の除外基準を2万円へ

一定の飲食費については、1人当たり1万円以下で、記録保存などの要件を満たせば、法人税の交際費等の範囲から除外されます。令和6年度改正で、2024年4月1日以後に支出する飲食費の基準が5,000円から1万円へ引き上げられました。[7]

日商は、物価上昇を踏まえ、この基準を1人当たり2万円以下へ引き上げるよう求めています。〔日商本文p.17〕

ただし、現行制度は「1万円以下の飲食なら何でも対象」というものではありません。専ら役員・従業員等のための飲食費はこの除外の対象から外れ、参加者や人数、支出額等の記録も必要です。金額の判定には、法人が採用する税込・税抜経理の別も関係します。[7]

実現した場合には、社内の経費精算ルールや会計処理の確認基準も見直すことになるでしょう。まずは「2万円になった」ではなく、「2万円への引上げが要望されている」と整理しておきます。

05 減価償却――金額基準と償却方法の見直し

日商は、建物等の法定耐用年数の短縮、中小企業について建物等の償却方法を定額法と定率法の選択制にすることなどを求めています。〔日商本文p.18〕

また、物価上昇を踏まえ、次の本則上の金額基準を引き上げるよう提案しています。

現行の制度の概要日商の要望
取得価額10万円未満等の少額資産の損金算入金額基準の引上げ
取得価額20万円未満の一括償却資産の3年間での損金算入金額基準の引上げ

現行の取扱いは、法人税法施行令133条・133条の2に基づくものです。事業供用や経理処理等の要件があり、貸付用資産には例外もあります。[8]

ここで取り上げられているのは、本則の10万円・20万円の基準です。中小企業者等の少額減価償却資産の特例とは分けて考える必要があります。また、この箇所では引上げ後の具体的な金額は示されていません。

資産価格が上がる中で、従来の金額基準が設備投資や事務負担の実態に合っているか。実務上、理解しやすい論点です。

06 賃上げ促進税制――一人ひとりの賃上げをどう捉えるか

中小企業向け賃上げ促進税制は、一定の要件の下、給与等支給額の増加に応じて税額控除を認める制度です。適用年度によって要件等が異なるため、対象事業年度に対応する資料の確認が必要です。[9]

日商は、制度の延長・拡充とともに、給与等支給額を従業員数で割った「一人当たり給与等支給総額」による判定も選択できるよう求めています。〔日商本文pp.10–11〕

従業員が退職すると、残った従業員の給与を引き上げていても、会社全体の給与総額は減ることがあります。今回の提案は、そうした人員構成の変化と、実際の賃上げを分けて捉えようとするものです。

もっとも、制度化するなら、従業員数の数え方や短時間勤務者の扱いなど、具体的な判定方法が重要になります。この点は、今後確認したい事項です。

07 給与の源泉所得税――通常の納付期限を翌月20日へ

給与等から源泉徴収した所得税等は、原則として、実際に支払った月の翌月10日までに納付します。所得税法183条等に基づく取扱いです。[10]

日商は、給与所得に係る源泉所得税の納付期限を、翌月10日から翌月20日へ延ばすことと、不納付加算税の軽減を求めています。〔日商本文p.24〕

ここで、納期の特例との区別が必要です。一定の要件を満たし承認を受けた場合、半年分をまとめて納付でき、7月から12月分の納付期限は既に翌年1月20日です。[10]

したがって、今回の要望は、税務に初めて「20日」という期限を持ち込む話ではありません。毎月納付する場合の通常の期限を延ばす提案です。また、日商のこの記載から、住民税や他の源泉徴収対象所得の期限まで一緒に変わると読むことはできません。

給与を集計し、源泉税を確認し、納付の案内をする。税理士事務所にとって、毎月10日は長くなじんできた期限です。実現すれば、確認作業や連絡の段取りに余裕が生まれる可能性があります。

もちろん、現行の納付期限を変えてよいわけではありません。それでも、この要望は静かに見守っておきたいと思います。

08 税額だけでなく、処理する時間もコストになる

日商の意見書には、次のような事務負担軽減の提案も並んでいます。〔日商本文pp.23–24〕

税率や控除額だけでなく、その制度を処理するために、誰がどれだけ時間を使うのか。中小企業にとっては、それも無視できないコストです。今回の整理が参考になるのは、この実務の側面を具体的な要望として示している点だと思います。

09 ここからは私見――非上場株式の評価見直しに、十分な説明を

先日、勉強会で、非上場株式の評価見直しについて詳しく話を聞く機会がありました。そこで改めて考えたのが、租税法律主義との関係です。

日本国憲法84条は、新たな課税や現行の租税の変更について、法律又は法律の定める条件によることを求めています。一方、相続税法22条には時価評価の原則があり、その具体的な評価の実務を通達が担っています。[3][11]

この構造から、通達による評価方法の変更を、直ちに違法だと断定することはできません。しかし、広い範囲の企業で評価額が上がり、納税者の負担が大きく変わる可能性があるなら、計算方法の技術的な見直しとしてだけ扱ってよいのか、という疑問は残ります。

私が知りたいのは、主に次の点です。

  1. 現行の評価方法に、どのような問題があり、どの資料で確認されているのか。
  2. 新しい方法が、法律のいう時価により近づくと考える理由は何か。
  3. 通達で対応する範囲と、立法による検討が必要な範囲を、どう整理しているのか。
  4. 企業の規模、業種、収益力によって、評価額や承継時の負担がどう変わるのか。
  5. 租税回避への対応と、通常の事業承継への影響を、どのように区別するのか。

必要な見直しを速やかに行うことは大切です。同時に、納税者の負担や長期の経営判断に関わる制度を、十分な理解がないまま動かしてよいとも思いません。

現時点で私が懸念しているのは、説明が尽くされているか、そして、その説明が専門家以外にも届く形になっているかということです。これは、日商の反対意見をそのまま自分の結論にすることとは分けて考えています。

税理士として、その法的な位置付けと経済への影響を理解し、事業者が自分に関わる問題として考えられるように伝える。その橋渡しが必要だと感じています。

情報があることと、理解して判断できることは同じではありません。制度の方向を考えるための材料が分かりやすく示されることは、納税者の納得だけでなく、民主的な議論の土台でもあると思います。

おわりに

今回の日商の意見書は、中小企業の経営と税務実務を結び付けて考えるための、よい入口になる資料です。

今後は、事業承継税制の特例措置終了後の設計、非上場株式の評価見直しの根拠と影響、消費税の制度変更に伴う実務負担を、特に確認していきたいと思います。

そして、給与の源泉所得税の納付期限。こちらも、要望と現行制度を混同せず、静かに注目しておきます。

参考資料・公式情報

以下の番号は本文の参照番号に対応します。日商のページ番号は本文PDFのページによります。

  1. 日本商工会議所「令和9年度税制改正に関する意見」(2026年9月16日付、9月18日公表)。本文・概要PDF:公表ページ
  2. 国税庁「法人版事業承継税制」:制度案内・比較
  3. 相続税法22条。国税庁掲載資料の条文抜粋:相続税法等の関係規定。具体的評価の取扱い:財産評価基本通達の制定
  4. 国税庁タックスアンサーNo.4638「取引相場のない株式の評価」:解説
  5. 国税庁「研究会等」:有識者会議の公表資料一覧
  6. 国税庁タックスアンサーNo.6505「簡易課税制度」:解説
  7. 国税庁タックスアンサーNo.5265「交際費等の範囲と損金不算入額の計算」:解説・根拠法令
  8. 国税庁タックスアンサーNo.5403「少額の減価償却資産になるかどうかの判定の例示」:解説・根拠法令
  9. 中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制」:年度別の案内
  10. 国税庁タックスアンサーNo.2505「源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」:解説・根拠法令
  11. 衆議院「日本国憲法」84条:条文

※本稿は2026年9月25日までに確認した資料に基づく検討ノートです。個別の申告・納付には、適用時点の法令と具体的な要件の確認が必要です。