実務・税法ノート · 政策の動向と筆者の検討を区別して読む
税実務・税法ノートFUSAKO OBANA · TAX LAW NOTES

PRACTICE & TAX LAW NOTE / 003

食料品の消費税率を、レジの都合で1%に決めてよいのか

「1%案」と租税法律主義――税率選択の根拠と、後世に残される立法理由

消費税税率選択と立法理由の検討確認日 2026年9月25日

実務・税法ノート

資料確認日:2026年9月25日

このノートの問い

食料品の消費税率を引き下げる議論において、レジや会計システムの改修に必要な期間が注目されてきた。実施可能性を考慮することは必要である。しかし、それだけで、国民に残す税負担の水準まで説明できるのだろうか。

本稿は、1%という税率を直ちに違憲と評価するものではない。税率を法律で定めるという要請と、その税率を選択する理由を国民に示すという課題を区別した上で、後者を租税法律主義の民主的基盤に照らして検討する。

なお、議論の状況は原稿の出発点となった春の報道から進んでいる。9月15日には関連する大綱が閣議決定された。ただし、大綱と成立した法律は異なる。以下では、確認できた政策形成の経過と、筆者自身の評価を分けて記す。

01 まず、何が決まり、何が法律になっていないのか

2026年4月24日の報道は、食料品の税率をゼロにする場合のレジ改修期間について約1年、1%の場合について事業者により3か月又は制度の詳細確定後5~6か月という見通しを伝えていた。これは当時のヒアリング結果に関する報道であり、あらゆるレジがゼロ税率を処理できないと実証した資料ではない。[1]

その後、9月15日に「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」が閣議決定された。財務大臣の説明は、2027年4月から2年間の税率引下げを、所得に応じた給付の本格導入までの措置として位置づけ、飲食料品の消費税1%相当分の範囲で行う支援金制度と組み合わせるというものである。[2]

国税庁の公表資料は、飲食料品の合計税率を1%とする改正案を説明している。同庁の特設サイトは、法案が国会に提出され、審議を経て可決・成立した場合の内容である旨を明記している。[3]

時点確認できた事項法的・手続的な位置づけ
2026年2月27日衆議院予算委員会で、片山国務大臣が食料品のゼロ税率を給付付き税額控除までの2年間のつなぎと説明。外食、資金繰り、申告負担、システム改修等を課題に挙げた。[4]国会における政策説明。税率改正法の成立ではない。
2026年4月24日0%と1%で改修期間が異なるという報道。[1]政策検討段階の情報。国会の議決ではない。
2026年9月15日上記大綱の閣議決定。国税庁・財務省が改正案の説明資料を公表。[2・3]政府方針の具体化。法律そのものではない。
2026年9月18日財務大臣が、今後の臨時国会への関連法案提出について説明。[5]この会見時点では提出予定として説明されている。

確認の限界: 9月25日の調査では、今回の政府案に対応する法案番号、提出日、委員会付託、採決及び成立・公布の一次記録まで特定できていない。「未提出である」と断定するのではなく、確認できた最新の政府説明と、未確認の手続を区別しておく。国会における政策一般の質疑と、特定の法律案の審議も同一ではない。

したがって、現在の議論を「レジに合わせて1%にするという報道だけ」と捉えるのは正確ではない。減税と給付を組み合わせる政策説明があることを認めた上で、それが1%という数値の選択をどこまで説明しているかを問う必要がある。

02 税率の法定と、税率選択の合理性を分ける

日本国憲法84条は、租税の新設・変更に法律又は法律の定める条件を必要とする。税率は税額を左右する課税要件の中核であり、その変更は租税法律主義の問題である。[6]

ただし、ここには二つの異なる問いがある。

法律に税率が明記されたからといって、政策批判が不要になるわけではない。他方、政策説明への不満が、そのまま憲法84条違反を意味するわけでもない。平等原則との関係を検討する場合には、憲法14条の問題として、どの取扱いの差を、どの理由で問題にするのかを別途明らかにする必要がある。

本稿でいう「説明責任」は、これらの区別を踏まえた、政府・国会の政策形成に対する民主的・規範的な要請である。説明が不足すれば当然に法律が無効になる、という判例上確立した独立の要件を意味するものではない。

03 判例は、立法裁量と実施上の制約をどう捉えているか

大島訴訟――技術的な事情を考慮すること自体は否定できない

最高裁大法廷昭和60年3月27日判決、いわゆる大島訴訟は、給与所得者と他の所得者との取扱いを憲法14条の観点から判断した。判決は、租税立法について、財政・経済・国民生活等の実態に関する正確な資料に基づく政策的・技術的判断と、広い立法裁量を認めている。[7]

注目すべきは、同判決が、給与所得の必要経費を個別に認定する技術的・量的困難や徴税費用も考慮した点である。したがって、この判決を根拠に「実務上の都合を税制の内容に反映してはならない」と論じることはできない。

本件への示唆は、実施上の制約を排除することではなく、その制約の実態と、採用する制度との関係を検証可能にすることにある。なお、同判決は消費税率1%の合理性を判断したものではない。

旭川市国民健康保険条例事件――法律・条例による規律と議会の役割

最高裁大法廷平成18年3月1日判決は、国民健康保険料には憲法84条が直接適用されない一方、強制徴収等の性質から同条の趣旨が及ぶとした。その上で、条例による算定基準の明確性と、予算・決算審議を通じた議会の統制等を踏まえ、保険料率決定の委任を許容した。[8]

同判決は、法律・条例と議会による規律の重要性を示す。ただし、社会保険料の委任に関する判断を、国会が定める消費税率の数値選択にそのまま当てはめることはできない。

04 8%の説明と、1%の説明

財務省は、現行の軽減税率制度を、2019年10月の標準税率10%への引上げに際して低所得者に配慮するための制度と説明している。[9]

もっとも、この目的だけで8%という数値の最適性まで証明されるわけではない。従来の税率にも、新たな税率にも、目的と具体的な設計をつなぐ説明が必要である。

また、本稿の8%・1%は地方消費税を含む合計税率を指す。公表された改正案の1%は、国税0.78%、地方税0.22%という内訳で示されている。[3]

給付との組合せにも注意したい。飲食料品に1%の税負担を残し、一定の者に給付する制度と、すべての対象取引の税率を0%とする制度は同じではない。給付対象、給付額、受給時期等によって家計の最終的な負担は異なる。「実質ゼロ」という表現を用いるとしても、すべての消費者の負担が個別にゼロになると受け取らせてはならない。

05 システム事情は立法事実になり得る。しかし、検証が要る

ここでいう立法事実とは、制度を必要とし、その内容を支える社会的・経済的な事実をいう。改修の期間・費用、事業者の準備状況、施行時の混乱の可能性は、その検討対象になり得る。

私は、システム事情は施行日だけに関係し、税率の選択には一切関係しない、とは考えない。早期の生活支援が目的であれば、実施時期の差が政策効果の差となり、制度設計に影響することはあり得る。

問題は、そこから1%という選択に至る論証である。少なくとも、次の点を確かめたい。

検討事項示されることが望ましい資料・説明
本当に0%の方が時間を要するのか対象システム、事業者の範囲、見積りの前提、開発・テスト・導入の各期間。単なる数値変更と、取引区分等の変更を区別する。
早期実施の便益はどの程度か施行時期の差による家計支援額、所得階層別の効果、価格への反映に関する前提。
1%と給付を組み合わせる理由は何か0%案との財政・分配効果の比較、給付対象外となる者、給付までの時間差。
他の方法では目的を達成できないか給付先行、改修支援、施行時期の調整等との比較。それぞれの費用や不利益も含める。
2年間の措置として合理的か導入時だけでなく、終了時の改修・表示変更・事務負担まで含めた評価。

これは、裁判所が常にこの一覧どおりの審査を行うという意味ではない。政策を評価する筆者自身の検討枠組みである。

なお、ゼロ税率と非課税を混同すると、仕入税額控除・還付の扱いを含めて比較の前提が変わる。システムの問題も、単に画面上の数字を「0」にする話なのか、法的な取引区分や申告処理まで変える話なのかを特定しなければならない。今回の1%案についても、還付や届出等に関する特例が公表されている。レジだけを切り離して実施可能性を評価することはできない。[3]

06 「レジの都合だけ」という批判を、どう位置づけるか

現在の政府説明には、物価高への対応と所得に応じた給付という政策目的がある。その存在を無視し、「レジ以外に理由がない」と事実認定することは避けたい。

しかし、目的を掲げることと、その目的のために1%を選ぶ理由を示すことは別である。減税と給付の組合せが望ましいという説明にも、なぜその配分なのか、どの家計がどれだけ支援されるのかという検討が残る。

したがって、私の懸念は、次のように表現するのが正確だと考える。

システム対応の容易さが税率選択に影響することを否定するのではない。その影響の大きさと根拠を明らかにし、負担の公平や早期支援の必要性、代替策の効果と比較した上で、国会が判断する過程を見えるようにしてほしい。

資料が公表されていることと、国民が判断できる形で説明されていることにも隔たりがある。税理士としては、その隔たりを埋め、制度の利点と不利益をともに理解できるよう橋渡しすることが重要だと考える。

07 『改正税法のすべて』に、何を残すのか

財務省の「税制改正の解説」や、大蔵財務協会の『改正税法のすべて』は、実務家が改正の背景・趣旨を確認する際の重要な参照資料である。財務省の解説には、意見等にわたる部分は執筆者の個人的見解である旨の留保もある。[10・11]

これらは、法律や国会審議録そのものではない。解説書に理由が記載されたことだけで、立法当時にその理由が十分に審議されたと証明されるわけでもない。条文、法案の説明、審議録、当時の資料を区別して読む必要がある。

その上で、私は、将来の解説に何が残されるのかを問いたい。

仮に、税率選択の説明が「ゼロではレジ改修が間に合わなかった」という事情に尽きるのであれば、租税立法の理由づけとして十分とはいえない。後世の検証に耐えるよう、政策目的と税率選択との関係を明らかにする必要がある。

後世に残してほしいのは、単なる改修日程ではない。何を政策目的とし、どの資料を確かめ、どの代替案を比較し、どの不利益を承知した上で1%を選んだのかという、検証可能な判断の記録である。

08 税率の大小ではなく、税率を決める過程を問う

1%という税率に賛成するか、反対するか。その前に、判断に必要な情報が共有されているかを確かめたい。

実施可能性を無視した制度は機能しない。しかし、実施可能性という言葉だけで、負担配分や政策効果の検討を終わらせることもできない。

税率を決めるのは、システムそのものではなく、その制約も含めて検討する立法府である。その判断を国民が理解し、評価できるようにすることに、租税法律主義を支える民主的過程の意味がある。

私は、今回の議論を、単純な違憲論にも、単純な実務優先論にもしたくない。税の負担を決める際に、どのような理由が示され、どのような議論を経たのか。その過程を、税理士として確かめ、記録しておきたい。

未確認事項・今後の追記

これらは「政府が資料を作成していない」「説明をしていない」という断定ではなく、本稿の確認範囲の限界である。公開前にも国会の進捗を再確認したが、上記の未確認事項は引き続き確認対象とする。

参考資料・公式情報

  1. TBS NEWS DIG「消費税1%だと『レジ改修に5~6か月』」(2026年4月24日)。改修期間についての報道。6月以降の政策決定を裏づける資料ではない。
  2. 財務省・片山財務大臣臨時閣議後記者会見(2026年9月15日)。大綱決定、政策の組合せの説明。
  3. 国税庁「消費税率引下げ特設サイト」及び「飲食料品に係る2年間の消費税率引下げについて」パンフレット(2026年9月)。改正案の説明資料。合計税率の内訳はPDF3ページ目。
  4. 第221回国会・衆議院予算委員会第2号(2026年2月27日)。小林鷹之委員の質疑に対する片山国務大臣の答弁。
  5. 財務省・片山財務大臣閣議後記者会見(2026年9月18日)。関連法案の提出についての当時の説明。
  6. 日本国憲法(衆議院掲載)。14条・30条・84条。
  7. 最高裁大法廷昭和60年3月27日判決・大島訴訟(裁判所PDF)。理由二2(二)~(四)、PDF3~5ページ目。民集39巻2号247頁。
  8. 最高裁大法廷平成18年3月1日判決・旭川市国民健康保険条例事件(裁判所PDF)。理由第2の2~4、PDF4~7ページ目。
  9. 財務省「『軽減税率制度』について教えてください」。制度導入目的。
  10. 財務省「令和7年度 税制改正の解説」。資料の性格を確認するための既刊年度の例。今回の改正についての解説ではない。
  11. 大蔵財務協会「税のしるべ」2025年8月4日号・『改正税法のすべて(令和7年版)』紹介。既刊書籍の位置づけの確認。

※本稿は政策形成及び租税法上の論点を検討するものであり、改正案を施行済みの制度として案内するものではない。